主治医の復職意見と職場実態が合わないときの対応|照会・面談・復職支援プラン
結論
主治医の復職意見と職場実態が合わない場合は、「主治医と会社のどちらが正しいか」を議論するのではなく、まず双方が前提としている情報の違いを確認します。
主治医は、病状、治療経過、診察時の状態、日常生活の回復状況を把握しています。一方、会社は、実際の業務内容、勤務時間、通勤、対人負荷、安全上の責任、繁忙期、職場で実施可能な配慮を把握しています。
主治医の意見は重要な医学情報ですが、それだけで会社の復職判断が完了するわけではありません。厚生労働省の手引きでも、主治医による復職可能の判断の後に、情報収集と評価、職場復帰支援プランの作成、事業者による最終決定、復職後のフォローアップという段階が示されています。
実務上の要点は、「復職可」「軽作業」「残業不可」といった抽象的な表現を、次の四つに分解することです。
- 何ができるのか
- 何を避ける必要があるのか
- その制限はいつまで必要か
- いつ、何を基準に再評価するか
この記事の対象
この記事は、次のような状況にある人事労務担当者、経営者、産業保健担当者、管理職を対象としています。
- 主治医から「復職可」の診断書が出たが、会社側に不安がある
- 「軽作業で復職可」と記載されているが、軽作業に該当する職務がない
- 「短時間勤務」「在宅勤務」「残業不可」などの意見をどう実施するか決められない
- 本人の希望と管理職の受入意見が大きく異なる
- 主治医に何を、どのように照会すればよいか分からない
- 主治医、産業医、人事の意見がまとまらない
よくある誤解
誤解1 主治医の「復職可」は、会社を直ちに拘束する最終決定である
主治医の診断書は重要な判断材料ですが、通常は本人の病状と日常生活の回復状況を中心に作成されています。
厚生労働省の手引きは、日常生活上の回復が、職場で求められる業務遂行能力の回復と必ずしも一致しないことを指摘しています。
誤解2 会社が不安を感じる場合は、診断書を受け付けなければよい
診断書を否定または放置するのではなく、会社側に不足している情報、主治医に伝わっていない職場情報、追加で確認すべき事項を特定します。
誤解3 本人の同意がなくても、会社から主治医に直接問い合わせてよい
主治医との情報連携では、本人に目的、照会内容、共有先を説明し、同意を得ることが基本です。厚生労働省の情報提供依頼書にも本人の同意欄が設けられています。
誤解4 「軽作業」「負担軽減」は、どの会社でも同じ意味である
軽作業という職種が存在するわけではありません。
同じ事務職でも、定型入力中心の仕事と、複数案件の判断・顧客折衝・納期管理を伴う仕事では負荷が異なります。抽象的な配慮を、実際の勤務時間、職務、責任、対人負荷に翻訳する必要があります。
誤解5 一度決めた配慮は、無期限に続けなければならない
配慮には、開始日、内容、終了予定または再評価日を設定します。
「当面」「しばらく」とだけ記載すると、本人、管理職、人事の認識がずれ、配慮を変更する際にトラブルが起こりやすくなります。
実務手順
手順1 「何が合わないのか」を一文で表す
最初に、主治医の復職意見と職場の実態とのずれを具体的な一文にします。
悪い例は、「主治医の意見に納得できない」です。
良い例は、次のような表現です。
- 主治医は1日4時間勤務を推奨しているが、現部署には4時間で完結する職務がない
- 主治医は在宅勤務を推奨しているが、担当業務は機密情報を扱うため常時在宅勤務ができない
- 主治医は残業不可としているが、現職には月末に突発対応が発生する可能性がある
- 主治医は復職可としているが、診断書に通勤、連続勤務、業務制限の記載がない
- 本人は原職復帰を希望しているが、休職前に対人調整業務で著しい負荷が生じていた
このような点が具体化されると、必要な追加情報が分かります。
手順2 主治医に伝える職場情報を確認する
主治医への照会前に、次の情報を1枚から2枚にまとめます。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 所定勤務 | 始業・終業時刻、休憩、勤務日数、シフト、夜勤 |
| 通勤 | 所要時間、混雑、車両運転の有無 |
| 主な業務 | 定型作業、判断業務、顧客対応、会議、管理業務 |
| 業務負荷 | 締切、同時並行作業、繁忙期、突発対応 |
| 対人負荷 | 顧客折衝、苦情対応、部下管理、チーム調整 |
| 安全上の要件 | 運転、高所作業、機械操作、医療・介護、金銭管理 |
| 休職前の状況 | 勤怠、業務遂行上の変化、既に実施した配慮 |
| 実施可能な配慮 | 短時間勤務、残業制限、業務変更、在宅勤務等 |
| 実施困難な配慮 | 制度上・業務上困難な事項とその理由 |
人事評価上の不満や本人への批判を列挙する文書にはしません。医学的意見を得るために必要な、観察可能な事実を記載します。
手順3 本人に連携の目的と範囲を説明する
本人には、例えば次のように説明します。
主治医の意見を否定するためではありません。実際の業務内容と、会社で可能な配慮を主治医に伝え、安全かつ継続的に働ける条件を具体化するために照会します。照会する内容と、主治医から受け取る情報の範囲を事前にご確認いただきます。
同意書には、少なくとも次の内容を記載します。
- 情報提供の目的
- 情報提供先
- 会社から提供する情報
- 主治医から受け取る情報
- 情報を取り扱う社内担当者
- 同意日
- 本人署名
包括的な同意ではなく、当該照会についての具体的な同意にします。
手順4 主治医には「機能」と「期間」を質問する
主治医への照会文は、例えば次のように始めます。
本照会は、貴院に当社の人事配置や復職可否の最終決定をお願いするものではありません。当社において就業上の措置と職場復帰支援プランを検討するため、医学的観点から以下をご教示ください。
質問例は次のとおりです。
- 所定の始業時刻に合わせた起床と通勤を、週5日継続できる状態か
- 1日何時間程度の勤務から開始することが望ましいか
- 連続して集中できる時間の目安
- 避けることが望ましい業務負荷
- 顧客対応、苦情対応、複数案件の同時処理に関する制限
- 車両運転、機械操作、危険作業に関する留意事項
- 残業、出張、夜勤、休日勤務に関する制限
- 通院頻度と勤務への影響
- 服薬に伴う眠気、判断力、注意力への影響
- 推奨する配慮の期間
- 再評価が望ましい時期
- 症状悪化時に職場が注意すべき変化
病名の詳細、治療上不要な私生活情報、配置先の決定、退職の判断などを主治医に求めるものではありません。
手順5 産業医面談で職場との適合を確認する
産業医面談では、主治医の意見を繰り返し聞くだけでは不十分です。
次の三つを並べて確認します。
| 医学的に望ましい条件 | 実際の職場条件 | 実施可能な代替案 |
|---|---|---|
| 1日4時間勤務 | 4時間で完結する業務がない | 6時間勤務、担当範囲縮小、週途中の休養日などを検討 |
| 在宅勤務 | 情報管理上、常時在宅は不可 | 週1日在宅、個室勤務、時差出勤などを検討 |
| 対人業務を避ける | 職務の中心が顧客対応 | 一時的な担当変更、同席者配置、苦情対応のみ除外 |
| 残業不可 | 月末に突発対応がある | 代理担当を明確化し、本人を緊急対応要員から外す |
代替案が医学的に許容されるか、会社で実施できるかを双方から確認します。
産業医面談で確認する生活リズム、通勤、治療状況、業務遂行能力の具体的な質問例は、「復職判定面談で確認する項目」をご参照ください。
手順6 復職支援プランを文書化する
復職支援プランには、少なくとも次の項目を入れます。
- 復職予定日
- 勤務日数
- 始業・終業時刻
- 休憩方法
- 担当する業務
- 一時的に外す業務
- 残業、出張、夜勤、休日勤務の扱い
- 在宅勤務の可否
- 通院への配慮
- 本人の相談窓口
- 管理職が確認する事項
- 産業医または人事のフォロー面談日
- 配慮の再評価日
- 体調悪化時の連絡基準
- プランを変更する手続き
「業務負荷を軽減する」「無理をさせない」といった抽象表現だけで終わらせないことが重要です。
手順7 本人と管理職に別々の説明を行う
本人には、判断の根拠、実施する配慮、再評価日、相談方法を説明します。
管理職には、病名や詳細な治療内容ではなく、次の事項を伝えます。
- 任せる業務
- 任せない業務
- 勤務時間
- 残業・出張等の制限
- 確認すべき勤怠や業務上の変化
- 人事または産業保健部門に再相談する基準
本人と管理職の双方に同じ支援プランをそのまま渡すのではなく、それぞれが必要とする範囲に分けます。
手順8 再評価を前提に運用する
復職時点ですべてを確定させる必要はありません。
復職後の勤務状況を確認し、次のように段階的に再評価します。
- 復職後1~2週間:初期の疲労、遅刻・欠勤、業務上の困難
- 復職後1か月:勤務の安定性、業務量、配慮の実効性
- 復職後2~3か月:通常勤務への移行可否
- 残業制限等を解除する前:解除後の負荷と再発予防策
これは法令上の固定日程ではなく、実務上の一例です。症状、職務、休職期間、会社制度に応じて調整します。
短時間勤務や残業制限の開始条件、再評価日、解除基準を具体的に決める方法は、「復職後の短時間勤務・残業制限の決め方」で解説しています。
チェックリスト
- 主治医意見と職場実態の相違点を一文で表した
- 実際の業務内容と負荷を文書にした
- 会社で実施可能な配慮を確認した
- 実施できない配慮とその理由を確認した
- 本人に情報連携の目的を説明した
- 本人から具体的な同意を得た
- 主治医への質問を機能・制限・期間に分けた
- 主治医に人事判断そのものを求めていない
- 産業医面談で実際の職務との適合を確認した
- 配慮の開始日と再評価日を決めた
- 本人と管理職への説明内容を分けた
- 復職後のフォロー面談日を設定した
注意点
本人に「会社が納得する診断書を主治医からもらってきてください」と依頼し、本人だけに調整を任せることは避けてください。会社側の職場情報や質問は、会社が責任を持って提供します。
診断書の内容に不満がある場合でも、主治医を否定する表現は避けます。診断書の作成時点で、主治医に十分な職場情報が伝わっていなかった可能性があります。
休職前に人事評価、服務規律、ハラスメント申告、対人トラブルなどがあった場合は、医学的評価と別の手続きで確認します。すべてを「病気の問題」にまとめないことが重要です。
運転、危険作業、医療・介護、金融取引など、安全上の影響が大きい職務では、一般的な事務職より慎重な評価が必要です。
公的資料・参考文献
- 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
- 厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のための主治医向けマニュアル」
- 厚生労働省「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」
- 厚生労働省「復職時の主治医との連携のコツ」
- 厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」
この記事を執筆した医師

井上 かな
Inovia Medica合同会社 代表社員・医師
精神科専門医・指導医/精神保健指定医
日本医師会認定産業医/公認心理師/博士(医学)
2009年、浜松医科大学医学部医学科卒業。2011年から精神科診療に従事し、大学病院、県立精神科病院、単科精神科病院等で臨床・教育・研究を経験。2024年から嘱託産業医として、企業・教育機関等の産業保健業務に携わっています。精神科臨床と産業医実務の双方の経験に基づき、企業のメンタル不調者対応、休職・復職、職場配慮に関する記事を執筆しています。
記事内容の最終確認日:2026年6月21日
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