ストレスチェックを実施して終わりにしないために|高ストレス者対応・集団分析・職場改善の実務

結論

ストレスチェックは、実施すること自体が目的ではありません。

本来の目的は、労働者自身がストレスの状態に気付き、セルフケアにつなげること、高ストレス者に医師面接の機会を提供すること、必要に応じて就業上の措置を検討すること、さらに集団分析を通じて職場環境を改善することです。厚生労働省の小規模事業場向けマニュアルでも、ストレスチェック制度は、検査そのものだけでなく、医師面接、就業上の措置、集団分析、職場環境改善を含む一連の取組と説明されています。

「毎年ストレスチェックを実施しているが、何も変わらない」と感じる会社では、実施後の設計が不足していることが多くあります。

特に重要なのは、次の三つです。

  1. 個人結果を人事が見ようとしないこと
  2. 高ストレス者面接を、本人が安心して申し出られる導線にすること
  3. 集団分析を、職場改善の仮説づくりに使うこと

ストレスチェックは、精神疾患を発見するための検査ではありません。厚生労働省のマニュアルでも、ストレスチェック制度は精神疾患の発見ではなく、メンタルヘルス不調の未然防止を主な目的とするものとされています。

したがって、会社が目指すべき運用は、個人を探すことではなく、職場のストレス要因を早めに把握し、相談・面接・職場改善につなげる仕組みを作ることです。

また、2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されることになりました。厚生労働省は2028年4月1日から義務化されると公表しています。 50人未満の会社も、今から実施体制、外部委託先、面接指導の依頼先、情報管理、相談窓口を検討しておく必要があります。

この記事の対象

この記事は、次のような経営者、人事労務担当者、産業保健担当者、管理職を対象としています。

  • ストレスチェックを毎年実施しているが、職場改善につながっていない
  • 高ストレス者面接の申出が少なく、制度が形骸化している
  • 集団分析結果を見ても、何を改善すべきか分からない
  • 50人未満事業場で、義務化を見据えてストレスチェック後の対応体制を整えたい
  • ストレスチェック実施会社、産業医、人事の役割分担を検討したい
  • 高ストレス者面接後の就業上の措置をどう扱うか迷っている
  • 個人結果の取扱い、管理職への共有範囲、不利益取扱いを避ける運用を確認したい

よくある誤解

誤解1 ストレスチェックは、会社が不調者を見つけるための制度である

ストレスチェックは、会社が個人結果を見て不調者を特定する制度ではありません。

個人のストレスチェック結果は健康情報であり、労働者のプライバシー保護の観点から慎重な取扱いが求められます。小規模事業場向けマニュアルでも、事業者が個人のストレスチェック結果を実施者等から不正に入手したり、提供を強要したりしてはならないこと、事業者が個人結果の提供を受けるには労働者の事前同意が必要であることが示されています。

会社が見るべき中心は、個人結果ではなく、制度全体の運用状況、面接指導の体制、集団分析、職場環境改善です。

誤解2 高ストレス者は、すぐに休職させるべきである

高ストレス者に該当したことだけで、直ちに休職、配置転換、就業制限を決めるものではありません。

高ストレス者で医師面接の対象となった労働者から申出があった場合、医師が面接指導を行い、事業者が就業上の措置を適切に講じられるよう意見を述べます。

就業上の措置が必要かどうかは、ストレスチェック結果だけではなく、本人の状況、勤務状況、労働時間、業務内容、睡眠、疲労、治療状況、職場で実施可能な配慮等を踏まえて判断します。

誤解3 高ストレス者面接を申し出ない人は、会社として何もしなくてよい

面接指導を受けるかどうかは本人の選択です。ただし、面接を申し出ない高ストレス者を放置してよいという意味ではありません。

厚生労働省のマニュアルでも、面接指導を選択しなかった高ストレス者が放置されないよう、面接指導以外の相談窓口を案内することが重要とされています。

会社としては、個人を追跡するのではなく、制度説明、相談窓口、外部相談、管理職教育、職場環境改善の導線を整えます。

誤解4 集団分析は、会社全体の点数を見るだけでよい

会社全体の平均だけでは、現場で何が起きているか分かりにくいことがあります。

集団分析は、部署、職種、拠点、勤務形態などの単位で傾向を見ることで、職場改善につなげやすくなります。ただし、小規模集団では個人が特定されるおそれがあります。厚生労働省のマニュアルでは、集団分析結果の提供は、原則として有効回答者数が10人を下回る集団では受けてはならないとされています。

集団分析は、個人を探すためではなく、職場単位の改善仮説を立てるために使います。

誤解5 外部業者に委託すれば、会社の役割は終わる

ストレスチェックの実施を外部機関に委託することは有用です。特に50人未満の小規模事業場では、プライバシー保護の観点から外部委託が推奨されています。

しかし、外部委託先を決めただけでは、会社の役割は終わりません。

会社には、実施方針の決定、労働者への説明、実務担当者の選任、面接指導の調整、医師意見を踏まえた就業上の措置、集団分析結果を踏まえた職場改善が残ります。

誤解6 管理職には、高ストレス者が誰かを教えた方が対応しやすい

管理職に必要なのは、「誰が高ストレス者か」という個人情報ではなく、職場として何を改善するか、本人から相談があったときにどう対応するか、就業上の措置が決まった場合に何を実施するかです。

管理職には、個人結果ではなく、集団分析から見える職場課題、相談を受けたときの初動、エスカレーション先、健康情報の取扱いを教育する方が実務的です。

実務手順

手順1 ストレスチェックの目的を社内で明確にする

最初に、ストレスチェックを何のために実施するのかを社内で確認します。

目的は、次の三つに分けると整理しやすくなります。

目的具体的な内容
セルフケア労働者本人がストレス状態に気付き、早めに対処する
個別フォロー高ストレス者が医師面接や相談窓口につながる
職場改善集団分析から職場のストレス要因を把握し、改善策を検討する

この三つが決まらないまま実施すると、「受検率を上げること」だけが目的になり、実施後の改善につながりません。

手順2 実施体制と情報管理の役割を分ける

ストレスチェックでは、少なくとも次の役割を分けます。

役割主な内容
事業者実施方針、体制整備、外部委託先選定、就業上の措置、職場改善
実施者ストレスチェックの実施、結果評価、高ストレス者選定、面接勧奨
実施事務従事者調査票回収、結果通知補助、面接申出受付等の実務
面接指導医高ストレス者面接、報告書・意見書作成、就業上の措置に関する意見
人事労務制度運用、規程、労働者説明、就業上の措置、記録管理
管理職受検しやすい環境づくり、職場改善、就業上の措置の実施

自社で実施する場合は、より厳格な体制整備が必要です。小規模事業場向けマニュアルでは、自社内で実施する場合、人事権を有する監督的地位の者は実施事務に従事できない等の制限や、健康情報を取り扱う者への守秘義務が示されています。

手順3 労働者への説明文を整える

ストレスチェック前に、労働者へ次の事項を説明します。

  • ストレスチェックの目的
  • 受検対象者
  • 実施時期
  • 回答方法
  • 結果の通知方法
  • 個人結果は誰が見るのか
  • 会社が個人結果を取得する条件
  • 高ストレス者面接の申出方法
  • 面接を申し出ても不利益取扱いを受けないこと
  • 面接を申し出ない場合でも利用できる相談窓口
  • 集団分析の目的
  • 個人が特定されない形で集団分析を行うこと

説明文で特に重要なのは、会社が個人結果を勝手に見る制度ではないと明確にすることです。

安心して回答できない制度では、結果の精度も、職場改善への信頼も下がります。

手順4 高ストレス者面接の申出導線を設計する

高ストレス者面接の申出が少ない会社では、次のような要因があることがあります。

  • 申し出ると上司や人事に知られると思われている
  • 申し出ると評価に響くと思われている
  • 面接で何を聞かれるか分からない
  • 面接後に休職を命じられると誤解されている
  • 申出方法が分かりにくい
  • 面接場所や時間が利用しにくい
  • 相談窓口が人事直通で心理的抵抗がある

対策として、申出方法、申出先、面接の目的、会社へ共有される情報の範囲、就業上の措置の決め方を事前に説明します。

小規模事業場向けマニュアルのモデル規程では、面接指導の申出後、実務担当者が面接指導医師と調整し、面接指導の実施日時を設定する例が示されています。

手順5 高ストレス者面接で確認する情報を、職場実務につなげる

高ストレス者面接は、診療やカウンセリングではありません。

面接指導を担当する医師には、氏名、所属、ストレスチェック結果、直前1か月の労働時間、労働日数、深夜業、業務内容、健康診断結果、実施時期が繁忙期だったかなどの情報を提供することが望まれます。

医師面接では、次のような観点を確認します。

  • 睡眠、食欲、疲労、集中力
  • 抑うつ、不安、焦燥、体調不良
  • 長時間労働、深夜業、休日労働
  • 業務量、責任、締切、突発対応
  • 人間関係、ハラスメントが疑われる状況
  • 通勤、家庭状況、治療状況
  • 本人が希望する配慮
  • 就業上の措置の必要性
  • 職場環境改善に関する示唆

ここで重要なのは、「高ストレス者である」という結果を、勤務時間、業務負荷、対人負荷、相談体制、職場環境の課題に翻訳することです。

高ストレス者面接の結果、休職・復職判断に近い確認が必要になった場合は、「復職判定面談で確認する項目」も参照してください。

手順6 就業上の措置は、医師の意見と本人の実情を踏まえて決める

面接指導の後、事業者は医師から就業上の措置に関する意見を聴取し、必要がある場合は労働者の実情を考慮して対応可能な就業上の措置を講じます。厚生労働省のマニュアルでは、労働時間の短縮、出張制限、時間外労働制限、労働負荷の制限、作業転換、就業場所変更、深夜業の減少等が例示されています。

実務上は、次のように整理します。

医師意見会社で検討すること
通常勤務で可相談窓口、管理職の見守り、職場改善の要否
就業制限が必要残業制限、業務量調整、出張・夜勤制限、再評価日
要休業休職制度、主治医受診、休職中の連絡方法、復職手続き
職場環境改善が必要管理職対応、業務配分、ハラスメント調査、職場改善計画

就業上の措置を実施する場合は、対象労働者の意見を聴き、十分な話し合いを通じて了解が得られるよう努め、不利益取扱いにつながらないよう注意する必要があります。

残業制限や業務負荷の調整が必要な場合は、「復職後の短時間勤務・残業制限の決め方」も参照してください。

手順7 面接を申し出ない人にも、相談先を用意する

高ストレス者に該当しても、医師面接を申し出ない人はいます。

その場合、会社が個人結果を追跡するのではなく、面接以外の相談先を案内します。

相談先の例は次のとおりです。

  • 産業医・産業保健スタッフ
  • 外部相談窓口
  • EAP
  • こころの耳
  • 主治医
  • 社内の人事労務窓口
  • ハラスメント相談窓口

厚生労働省のマニュアルでも、面接指導の申出窓口以外の相談できる窓口について労働者に情報提供しておくことが望まれるとされています。

手順8 集団分析は、職場改善の仮説づくりに使う

集団分析では、部署ごとの「良い・悪い」を決めるのではなく、改善すべき要因を探します。

見るべき観点は、少なくとも次の四つです。

  1. 仕事の量的負荷
    業務量、締切、残業、突発対応
  2. 仕事の質的負荷
    判断の難度、責任、顧客対応、感情労働
  3. 裁量と予測可能性
    自分で調整できる範囲、予定変更、指示の明確さ
  4. 支援と関係性
    上司支援、同僚支援、相談しやすさ、心理的安全性

厚生労働省のマニュアルでは、集団分析結果だけでなく、外部機関からの参考データ、管理監督者の日常の職場管理で得られた情報、労働者からの意見聴取なども勘案して、職場環境改善の措置を講じることが望まれるとされています。

数値だけで改善策を決めず、現場の聞き取り、管理職ヒアリング、労働時間、離職、休職、ハラスメント相談、業務変更の状況と合わせて確認します。

指示方法、対人負荷、感覚環境などが職場改善の論点になる場合は、「発達特性を有する方に対する職場配慮の進め方」も参考になります。

手順9 職場改善は、小さく始めて再評価する

職場改善は、大規模な制度変更だけではありません。

例えば、次のような小さな改善から始められます。

集団分析で見えた課題改善例
仕事量が多い繁忙期の応援ルール、優先順位の明示、会議削減
裁量が低い締切前の相談機会、作業順の裁量、事前共有
上司支援が低い1on1の定例化、管理職研修、相談基準の明確化
対人負荷が高い苦情対応の分担、二次対応者の設定、記録方法の統一
役割が曖昧職務分担表、依頼窓口、判断権限の整理
変更が多い変更理由、期限、影響範囲をセットで伝える

実務上の原則は、一度にすべてを変えないことです。

まず一つの職場課題を選び、改善策、担当者、期限、再評価日を決めます。改善策の実施後は、次回ストレスチェックまで待たず、1〜3か月程度で職場の反応を確認します。

手順10 ストレスチェックを年間計画に組み込む

ストレスチェックは、年1回のイベントではなく、年間の産業保健計画に入れます。

例として、次のように設計します。

時期実施内容
実施3か月前委託先、実施者、面接指導医、規程、説明文を確認
実施1か月前従業員説明、管理職説明、相談窓口の案内
実施期間受検勧奨、未受検者対応、問い合わせ対応
結果通知後高ストレス者への面接勧奨、相談窓口案内
1か月以内医師面接、医師意見、就業上の措置の検討
結果集計後集団分析、職場改善テーマの選定
3か月後改善策の実施状況を確認
次年度前実施体制、説明文、面接申出率、職場改善の見直し

50人未満事業場では、これをすべて社内だけで行うのは負担が大きくなることがあります。外部委託先、産業医、地域産業保健センター、メンタル産業保健顧問などの役割を早めに決めておくと、義務化後の混乱を避けやすくなります。

チェックリスト

□ ストレスチェックの目的を、セルフケア・個別フォロー・職場改善に分けて説明できる

□ 実施者、実施事務従事者、面接指導医、人事の役割を分けた

□ 個人結果を会社が勝手に見ない運用になっている

□ 労働者向け説明文に、個人結果の取扱いを明記した

□ 高ストレス者面接の申出方法を分かりやすくした

□ 面接を申し出ても不利益取扱いをしないことを説明した

□ 面接を申し出ない人にも相談窓口を案内している

□ 面接指導医へ提供する勤務情報を整理できる

□ 医師意見を、勤務時間・業務負荷・再評価日に落とし込める

□ 集団分析で個人が特定されないよう配慮している

□ 有効回答者数が少ない集団の扱いを決めている

□ 集団分析結果を、管理職の責任追及ではなく職場改善に使っている

□ 職場改善の担当者、期限、再評価日を決めている

□ 次年度の実施前に、前年度の運用課題を見直している

□ 50人未満事業場では、外部委託先や医師面接の依頼先を検討している

注意点

ストレスチェックを受けないこと、個人結果の会社提供に同意しないこと、面接指導の申出をしないことを理由に、不利益な取扱いをしてはいけません。厚生労働省のマニュアルでは、これらを理由とする不利益取扱い、また面接指導結果を理由とする解雇、雇止め、退職勧奨、不当な配置転換等を行ってはならないことが示されています。

また、高ストレス者面接の結果を管理職へ共有する場合も、病名や詳細な私生活情報を共有するのではなく、就業上の措置を実施するために必要な範囲に限定します。

集団分析も、人数が少ない部署では個人が推測されるおそれがあります。小規模な部署では、集計単位を統合する、複数年の傾向を見る、数値だけでなく匿名性を保った意見聴取を組み合わせるなどの工夫が必要です。

本記事は一般的な産業保健情報であり、個別従業員の診断、治療、復職可否、法的判断を行うものではありません。

公的資料・参考文献

  • 厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」
  • 厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」
  • 厚生労働省「面接指導を実施する医師の方」
  • こころの耳「長時間労働者、高ストレス者の面接指導について」
  • 厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」

この記事を執筆した医師

井上 かな

Inovia Medica合同会社 代表社員・医師

精神科専門医・指導医/精神保健指定医
日本医師会認定産業医/公認心理師/博士(医学)

2009年、浜松医科大学医学部医学科卒業。2011年から精神科診療に従事し、大学病院、県立精神科病院、単科精神科病院等で臨床・教育・研究を経験。2024年から嘱託産業医として、企業・教育機関等の産業保健業務に携わっています。精神科臨床と産業医実務の双方の経験に基づき、企業のメンタル不調者対応、休職・復職、職場配慮に関する記事を執筆しています。

記事内容の最終確認日:2026年7月8日

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